建築から学ぶこと

2012/03/28

No. 319

人生を重ねあわせて建築はできる

徳川の治世下、江戸の武家屋敷は幕府からの拝領を基本としていた。幕政に関与する譜代大名や旗本が将軍交代によって「一等地」からの引越しを余儀なくされたことに比べれば、外様大名は江戸城から少し離れた位置での安定を保持することができた。江戸時代はそのような場所固有の性格を育てた時代であり、そのことは岩本馨「江戸の政権交代と武家屋敷」(吉川弘文館2011)に活写されている。

さて、加賀金沢藩の前田家には、11代徳川家斉の22女(子供は全部で54人いた!)のお輿入れがあり、それを迎えるために造られたのが、東京大学の赤門であるという。先ごろ、その赤門南側に新築された<東京大学・伊藤国際学術研究センター>を訪ねたが、なかなか濃密な出来栄えであった。本郷キャンパスの重厚な建築群(内田ゴシック)と向きあい、小気味良いスケールがよく響きあっている。すぐ外には本郷通りがあり、内に向いては勇壮な樹木が並ぶ道を受け止める位置にあり、キャンパスと街をつなぐ役割を果たしている。樹木越しに赤門北側を眺めると安藤忠雄さん設計の情報学環・福武ホールが見える、そういう位置にある。

ここは社会人向けプログラムの基地でもあるので、名実ともに学と社会を結ぶ場となっている。設計した香山壽夫さんは、教授時代にキャンパスマスタープランをまとめたおりから、このポイントの重要性に注目していたという。ここにあったかつての史料編纂所倉庫に改修を施し、それを組み込んだ取り込んだ魅力的な解を引き出した。この場所にある歴史的変遷をよく読みこんだもので、まさに香山さんが蓄積してきた経験によって生み出された作品である。

施設は伊藤雅俊氏の寄贈によって実現したのだという。場所にある意味も重要であるが、それにも増していくつもの人生の思いが重なっていることも見逃せない。建築はそのようにして受け継がれたり、生み出されたりする。年度の変わり目の出会いと別れは、また新たな価値創出の機会となるのであろう。

佐野吉彦

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