建築から学ぶこと

2005/12/07

No. 12

オープンネスが保証する

どんな仕事にも、始点と終点がある。スペースシャトルを打ち上げるのも、家を掃除するのも、同じこと。そこには完結状態をイメージし逆算して準備することと、細かな手順を積み上げて編み上げてゆくこととの、両面がある。逆算方式では、始点で入念にコンセプト確認や初期値設定が必要であり、積み上げ方式ではいかにきちんと終結させるかを考える。重視すべき時点がさかさまになるのである。

建築をつくる作業も、両面を含んでいる。費やす時間が長く、関係者が多岐にわたるプロセスであるのだが、途上でチューンアップできるという特徴がある。いいかげんなスタートは切るべきではないけれども、内容の是正や状況に即した対応の余地がある。これは閉じていないネットワークでつくるからこそ可能となる。共同で取り組むことが、成果の正当性を保証するかたちになるのである。

先日、金沢21世紀美術館(2004年10月開館。設計:SANAA)をふらりと訪れた。平日の午後ではあったが、ずいぶん賑わっている。現代美術を扱う場として快いリズム感があり、中庭を介して人の動きをお互い感じられるのが楽しい。十分練りこまれたプランであるとも感じた。また、コーナーごとに市民ボランティアがガイドを務めており、置かれた作品をめぐって意見を交わすことができたが、会話の端々から、この美術館への愛情が伝わってくる。市民を巻き込んだ共同作業は、美術館ができるまでも、出来あがってからも続いているようである。

帰途、金沢駅までタクシーに乗る。たまたま建築界の話題になったので、あの美術館は絶対にきちんと出来ているよ、と運転手氏に話した。これだけ市民を巻き込んだら、必ず良いものを創ろうと思うからね、と付け加えたら、彼はまんざらでもない反応を見せた。

佐野吉彦

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