建築から学ぶこと

2018/09/26

No. 640

楠のある広場、アーツ千代田3331

アーツ千代田3331は、千代田区外神田(銀座線末広町駅至近)にある旧・練成小学校校舎を活動のベースとしている。ここは、アートを中心とした創造活動を続けるとともに、出入り自由な場所として成熟途上にある。今は公立学校の機能はなくても、人が人に語りかける、人を動かす空気は変わらず漂っている。かつての校舎建築に宿る町の記憶は地域を結びつける磁石でもあり、その固有性は活動に関わるアーティストや地域の人々、また立ち寄る人たちを刺激し、あるいは警戒心を解く。ここはすでに、新しいかたちのアートスペースという定義は越えているかもしれず、経済を創造するセンターと言っても差し支えない。すでに、入場者が年間80万人を越えているということは、成功した集客施設としても高く評価できる数字である。地元の神田だけでなく、千代田区全域、2020年を控えた東京のツボをも刺激している。
アーツ千代田3331はこれまで社会的なメッセージを力強く、根強く発信してきた。たとえばアーティストによるアウトリーチ活動、ポコラート(「障がいの有無に関わらず人々が出会い、相互に影響しあう場」であり、その「場」を作っていく行為、と定義される)、にも先駆的に取り組んでいる。さらに、山王祭などの祭の一翼を担う役割、防災意識の啓発など、アートには軸足を置く一方、活動の振幅を大きくすることを忘れない。
ところで、「神田では、仁義を切ることが大事である」と語るのは、アーツ千代田3331の統括ディレクタ-で、アーティストである中村政人さんである。要は、事を行う前後にあいさつを怠らない、ということで、それが人の心を動かし、人をうまく巻き込む要諦となる。そのようにていねいに拡げたネットワークの先にある触覚の可能性を中村さんは試している。それはまた、全国各地で成功しているアートイヴェントや建築イヴェントにも共通するアプローチである。

佐野吉彦

アーツ千代田3331は今年で8年目。

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