2022/10/12
No. 839
都道府県知事のメッセージは、県境をまたいでは伝わりにくい。過去3年のコロナ禍は、事あるごとに知事が全国ニュースに引っ張り出されたことで、思いがけずそれぞれのリーダーシップのあるなしが透けて見えていた。これは例外的で、普段は大都市圏には都市に固有の問題があり、地方では地域振興のテーマが切実なので、地域政治の背景がずいぶん異なるのである。そのなかで東京都と大阪府がいつも注目されているのは、知事のふるまいが国政に影響を与えているからでもあろうか。一方で大分県の平松守彦知事が始めた「一村一品運動」は、地域振興を目指しながら、世界に通じる産品づくりを支援する前向きな意図を持つ、広く影響力を残した取り組みだったと言えるだろう。前回言及した熊本県の「くまもとアートポリス」は、同じかたちでは全国に定着しなかったが、公共施設のデザイン向上を多少刺激したかもしれない。
その中で沖縄は特別な歩みをたどった。近刊「沖縄県知事―その人生と思想」野添文彬、新潮選書2022)によれば、沖縄の歴代知事は、それぞれ異なる視点とその時代に沿ったテーマを有する一方で、変わらず米軍基地問題に多くの時間を割いてきた。沖縄は、経済や観光、空港などのインフラ整備、環境や福祉などのテーマでは着実な積み重ねはあったものの、基地をめぐっては保守革新を問わず、国との関係がいつもギクシャクしている。その場面を観察・考察すれば、そこでは国政の課題も浮かびあがる。
おそらく、沖縄に基地が集中する特別さを具体的に解決してゆくことだけでなく、日本と世界の未来像を描くために、ここからのさまざまな問題提起を活かす必要がありそうだ。もちろん、沖縄以外の地域にも、日本の未来にかかわる、聞き逃してはならないメッセージがあるだろうが。