建築から学ぶこと

2019/03/27

No. 665

三河湾を俯瞰する

愛知県南部にある三河湾は600km²の、ゆるやかに閉じた海域、すなわち「閉鎖性水域」に当たる。669km²の琵琶湖よりはひとまわり小さい。湾岸を眺めてみると、干拓地には農業集積があり、三河港や衣浦港を介して産業基盤が育ち、東海道をたどれば中京都市圏とも近い。なお、平均水深は9mしかなく(東京湾は45m)、沿岸の漁業には向いている。それらが食や産品のバリエーションを呼び起こしているのだ。一方で三河湾は国定公園でもあり、景観や環境の安定とコントロールが求められる。強烈な自然美の個性では物足りないものの、このエリアは「人文学的景観の地」あるいは「さまざまな課題と向きあう地」として注目されてもよいのではないか。
なお、これまでエリアのいろいろなところで仕事をしてきた。工場でも、商業施設でもリゾートホテルでも、素直に文脈を読みとり、チャレンジができる空気とおおらかさがあるように感じる。ちなみに私の先祖は江戸時代が始まるまで蒲郡の隣の幸田町にいたらしく、いくぶんの縁があるのは嬉しい。
ただし、そうした三河湾エリアの良さはここに出かけてみないとわからない。全国的な発信力はもう少し欲しいところである。伝えにくい良さをまちがいなく伝えるためには、積極的な戦略があってよいかもしれない。たとえば<農産物の地域ブランド化>については、岡崎を中心とした八丁味噌は知られているが、質のいい豊かな海産物や三河野菜が、関サバ・野沢菜のような名前に負けるのは口惜しい。<文化資源としての建築>については、街道に面した商家などに見るべきものが多くあるだけに、これに現代の建築的魅力を重ねてみれば魅力的な土壌になるだろう。ここはひとつ、料理も建築も旨い付けあわせを考えてみてはどうか。

佐野吉彦

風吹き抜ける三河湾

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