2015/02/04
No. 460
ニューヨークにある建築や土木構築物は、多くの映画のなかで見事な舞台装置として使われてきた。低層の集合住宅からウディ・アレンは細やかなドラマを生みだしているが、セントラルパークの季節の動きに物語を重ねあわせたケースも数多くある。映画の作り手たちは、人と人との出会いをドラマティックに描き出す上で、この街にある人工と自然の対比、土地のちょっとした起伏に眼を向けているのだ。近作の「アニー」(2014)を監督したウィル・グラックもそのひとりで、おなじみの寓話をリメイクするにあたって、現代のIT技術を小道具に巧みに使いつつ、地区を形成する象徴的な風景をドラマの転回点としている。
彼の選択の着眼点には、父であるニューヨークの建築家、ピーター・グラックの影響があるかもしれない。定番と言えるブルックリン・ブリッジ、どこにでもあるようなグロッサリーの起用とともに、槇文彦さん設計の4WTCの高層階の持つ浮遊感をうまく活用しているのは新しい。終わり近くの重要な場面でハドソン川の対岸・ニュージャージー側の公園を使い、登場人物がマンハッタンのタウンスケープを客観的な眼差しで眺める場面も効果的だが、レセプション風景で登場するグッゲンハイム美術館には、何とピーター・グラック本人が役者として姿を見せている。
ピーターの事務所(Gluck+)については、本連載・第424回で触れた。現在、この勢いのある設計事務所は、ウィルの兄である建築家トーマス・グラックが父とともに経営している。さて、この映画の最終の場面には彼らの作品イーストハーレム・スクールが登場する。コミュニティに根ざした学校だが、建築も晴れやかで切れ味の良い表情を見せている。彼らファミリーが構想するニューヨークはとてもすがすがしく、そしてポジティブに出来ている。