建築から学ぶこと

Learning from Architecture

去りゆく姿は美しい

  • No.657
  • 2019年Jan30日

これから年度末に近づいてゆくと、いろいろな大学で教員の退任行事が開催される。そのひとつが東京藝術大学美術館で開かれていた、同大学の建築学科教授の任にあったトム・へネガンさんと北川原温さんによる<退任展>(2019.1.8-20である。前者は会場で、さまざまな名建築を支えている思想を明らかにする。それは、へネガンさんが述べているように「建築をつくるということは物質的にも知性的にも創造性を発揮することである」本質を示すもの。後者は、北川原さんの創造の軌跡をひとつひとつ振り返りながら、絶えず問いかけてきた「建築とは何か」という原論に静かに迫るものである。なお、彼らは大学の定年に達しただけで、今後も活動の草鞋は履きつづける。スポーツ選手の引退セレモニーとは趣旨が異なるのである。従って、すべての展示は去りゆく姿を美しく見せるというより、折り返し点の足元を再確認するために設営されたのだと思う。もちろんそれは、観る者にとって、絶頂期のスポーツ選手のようにカッコいい。

一方で、思いがけない逝去に際して開催されるお別れの会(献花+功績展示ほかで構成されるもの)には違うニュアンスがある。ここには、逝く人と受け継ぐ主催者とのあいだに無言のやりとりを感じとることができる。たとえば、社業だけでなく社会貢献を含めた様々な活動にかかわる展示パネルを用意する趣向がある。そこからはあたたかな体温を受け継ごうとする思いが伝わる。その一方で、展示パネルでは個人のエピソードについては多くを語らず、主力商品を活用しての社業の着実な発展に主眼を置き、シンプルに会場を構成した趣向がある。おそらくそこに故人の自負と遺志が宿っているのだろう。ちなみにこれらはどちらも建設業のトップのお別れの会の例だが、生涯をものづくりにかかわり、別れをもので語ることができるのは幸せである。

  • 北川原温退任展<太陽と月と地球と人がつくる円錐形の闇>

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