2014/02/26
No. 414
馬場璋造さん著の「日本建築界の明日へ」(鹿島出版会)は、2001年から昨年までの毎月の発信をまとめたものである。大手設計組織(組織設計事務所と施工会社設計部)を念頭に置いていた経緯があり、あなたがた自身が変わらなければ日本の建築も建築生産も変わらないよ、という骨太なメッセージが含まれている。たとえば<優れた建築デザインによって設計組織が成長してゆく道を根幹に据えなければならない>と述べ、<設計教育においては、内部やクライアントを説得できる対外折衝力を持つべきことを意識させよ>との趣旨を語る。大手組織であれば、それらをやり遂げる社会的責任があるのではないか、というわけである。
真に豊かな社会を作るために、建築をどのようにつくるべきか、そしてつくらせるべきか。馬場さんはこうした論点群の中から、設計料や発注方式といった社会システムをめぐる問題を切り出し、建築団体の将来についても一歩踏みだした提言をおこなっている。官僚システムの問い直しや環境問題をめぐる発言においては、むしろ読者がそこからさきの議論の広がりを促していると言える。<一度定めたスタンスでも固執しないで変えることのできることが要諦>というくだりは、建築界を越えて読まれるべきメッセージであると思う。
さてこの本の出版記念の会が行われた午後、私はさらに東京理科大学工学部建築学科の卒業設計講評会会場へと移動した。作品の中での学生たちは、造形を追究しながら、時間軸を手掛かりに建築と都市を捉えようとし、ときに自己を投影してみせている。彼らは大きな成果を手にしたが、作業をやりとげたことで未成の課題もあらたに見出したことであろう。馬場さんが本の中で触れているように、これから<人間は表現することで進歩していく>ことを続けるに違いない。おそらく、絶えず問い直しを継続すべきなのは、建築のベテランも初心者も同じだから。結果としてよりよい社会が出来れば言うことはないのである。
(註)< >内は引用した文章ですが、多少切り詰めてあります。