2019/10/09
No. 691
東日本大震災の年に福島市で開催予定だった日本建築士事務所協会連合会の大会が、ようやく2019年10月に実現の運びとなった。プログラムのメインに据えられたシンポジウム(星 浩氏、鈴木浩氏ほか)では、震災復興と、原発事故の克服という大きな課題と併走してきた地域の未来を扱った。目指すものは、サステナブルな地域社会の未来であり、創意工夫のある農業革命と新商品開発であり、拡大志向ではなく質の高い社会の実現といった点である。特別な事情のあった土地で、いかに普遍性のある回答を導き出せるか。福島での取り組みは、これからの他地域、また世界に向けたメッセージとなるだろう。
さて大会では日事連建築賞の表彰が恒例である。今年は、私が担当して、受賞者に作品の魅力や苦心についてインタビューするコーナーを設けた。対象はトップ2賞に限ったが、両方とも厳しい気候下での作品―北海道北見市留辺蘂の小学校と奄美大島の住宅―だったので、まずは難しい条件を乗り越え、いかに気持ちの良い空間を導き出したかを聞いた。前者は寒冷地、後者は多雨。もちろん創意はそうした気候面だけではない。前者には、建材の調達に制約がある場所ゆえに混構造で木造を実現したチャレンジがあり、子供たちの場づくりが地域の場づくりにつながる姿がある。後者には、閉じながら開くという美しい表情のなかに、地域性に陥らないモダニズムの理想型を目指している。
どちらも、建築を実現するプロセスの中に、産業の未来像、地域の未来像づくりへの戦略眼があり、それらすべてが観衆すなわち建築設計者の関心を惹きつけていた。シンポジウムと同じように、ここには<特別な事情のあった土地で、いかに普遍性のある回答を導き出せるか>というメッセージがあるが、それこそ建築設計者がなすべき本分なのだ。中身のある大会であった。