建築から学ぶこと

2021/09/08

No. 785

普遍性と地域性の往還

建築は歴史を学ぶ最良のテキストである。とりわけ、20世紀初頭に形をあらわしたモダニズム建築は、メディアと交通の広がりとともに世界に広がるムーブメントであった。それは国際連盟など国家間を調停するシステムの誕生に先立って、世界がひとつの思いを共有した自発的な動きである。建築を通じて社会をより良いものにしようという志がそこにあった。かくしてモダニズム建築はかけがえのない建築資産となって、いまも世界各地で、日本の僻地においても生き続けている。その後の大戦、冷戦期を経たあとに世界はそれぞれの地域らしさを見出しながら、一方では連携する力を失いかけた。でもひとつにつながる希望は捨ててはいない。そうしたプロセスにおける社会の収穫も挫折も、建築の動きを通して知ることができるが、モダニズム建築はその出発点にある。

先ごろ開催された第16回DOCOMOMO国際会議2020+1東京」 (The 16th Docomomo* Conference Tokyo Japan 2020+1) に、私は実行委員として参画していた。一年の延期を経てオンラインでの議論であったが、そのおかげで情報空間が地球ひとつながりとなり、建築の来し方を振り返り、未来を構想することができたと思う。モダニズム建築にある普遍的な理念と、固有なアイディアと構法選択との往還。目に見る建築を保全するか記録するかの現実的な選択。専門家はそれらの足取りをたどりながら。これから先も沈着冷静に世界と向きあうことになる。この大会はその中間点、議論とアクションの節目というものである。

ちなみに10年前の私は、東京でのUIA2011(第24回世界建築会議)の実行委員を務めたが、あのときは東日本大震災直後、今回はCOVID-19という「災害」に向きあった共通点がある。人を結びつけ前向きなメッセージを発信できた点で、国際会議もそして建築も、歴史を前に進める力になったと考える。

 

*Docoomo: the international committee for documentation and conservation of buildings, sites and neighborhoods of the Modern Movement The theme of Conference is “Inheritable Resilience: Sharing Values of Global Modernities”

佐野吉彦

Docomomo2020+1を担った人たち

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