2020/09/30
No. 739
企業経営者は、自らの組織のメンバーがどのように働き、どのようにネットワークして価値を生み出しているかを把握しようとする。製造業ならば消費者ニーズがどこを向いているのかにも関心を払うだろう。総じて人の動きが気になるというわけだが、ここで文化人類学的手法(エスノグラフィ)が使われることがある。もっとも日本は米国とは違い、そのために専門家を積極雇用する方向にはなりにくい。それでも、あまたあるリーダーシップ論や組織論に乗っかる前に、現状の冷静なサーヴェイが重要との認識は深まっている。それこそがリアリティのあるマネジメントと言える。[* 参考文献 テキスト経営人類学(中牧弘允ほか編、東方出版2019)]
さて、新たな政権のスタートに伴ってデジタル改革担当大臣が任命されている。これまでIT政策担当大臣という呼び名はあり、今回もそれと兼務だが、デジタルという語感によってねらいがはっきりしたのはいい。遅れを取り戻そうとのメッセージも感じられる。でも最初にメディアが飛びついた<ハンコ廃止>くらいでは喜べない。ほんらいデジタル化は達成目標ではないはずである。目的に達するプロセスの合理化に向け、デジタルをいかに活用するかが肝心であるはずだ。
避けたいのは、プロセスを現状維持したまま一部だけデジタル化するという愚である。そもそもデジタル化以前に資料は多すぎないか。デジタルだからチェックを飛ばしていいことになっても困る。大臣にとって省庁間の縦割り打破がターゲットなら、現状の省庁の動き方や市場についてしっかりサーヴェイすることを期待する。付記して言えば、建築生産におけるBIMについても、プロセスや市場の課題をふまえて大きな改革につなげる視点を忘れないようにしたいものだ。