建築から学ぶこと

2023/06/21

No. 873

そのきっかけから世界を動かす、LAから

デジタル・アーティストのレフィーク・アナドールは、子供のころのトルコで映画「ブレードランナー」に魅せられたことで、映画の舞台だったLAに渡ってメディア・アートを学ぶ。そこから、実際の都市風景を越える、先取りする空間表現を究めてゆく。膨大なデータの蓄積から自動生成するデザインプロセスも、その成果も眩いばかりだが、建築空間に対する敬意が備わっている。たとえば、ディズニー・コンサートホール外壁に投影された映像を見るとそう感じる。この先もまだまだ時代を引っ張りそうであり、建築の変化を加速させる役割を果たすのではないか。
ところでLAと言えば、このまちを拠点にしてきた建築家バーバラ・ブーザの活躍が興味深い。前回紹介した米国建築家協会(AIA)大会のキーノートスピーチに登壇し、エネルギー溢れるスピーチで場内を沸かせていた。彼女はゲンスラーLAの上席役員を経て現在ディズニー・イマジニアリングのトップの立場にある。ディズニー傘下の同社は世界中のディズニーランドはじめ様々なエンターテインメントの具現化を司る。ディズニーのために仕事をするのは彼女の幼いころの夢でもあったのだが、ディズニーの方が経営目標を達成するために彼女を必要としたのは、その建築設計の経験だけでなく、多様な人々をまとめあげる力量があったに違いない。事実、彼女は建築界におけるマイノリティの地位向上に力を尽くしてきた。
前者は建築外の視点から建築を動かす人であり、後者は建築の専門的な経験をベースにして世界をポジティブに変えてゆこうとしている。同じLAに、人間性と情熱と知識を兼ね備えながら、人生の始まりに見た夢に向かって異なるベクトルからシンプルに進む逸材がいたというわけである。

佐野吉彦

AIA大会会場にて

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