建築から学ぶこと

2024/03/27

No. 911

建築は変化し、進化する

建築を計画するときに固有性と普遍性のどちらを重視するかは、時代による振れ幅がある。かつてインターナショナルスタイルが姿を現したとき、誰にとっても明瞭な建築の解に到達した、と皆がそう感じた。私が建築を学び始めた約50年前は、その確信が少し揺らぎ始めた時代だっただろうか。そして、仕事に就いた頃にはポストモダンのデザインが新しい時代の先唱者になり、やがて後景に退いていった。その代わり、身近にあった、懐かしむだけの存在と思われていた土着の建築が、その土地らしいありようを物語るかけがえのない道標に昇格していった。
そのように、建築の価値判断も趣向も細かい変化を繰り返している。たとえば、近代のオフィスビルも固有性の表現から始まり、高層化の技術が進むことで、普遍性の追求も進んだ。のちに東アジア諸国に超高層が林立する時期になると、普遍性と固有性が交じり合うスタイルが勢いを増した。だが昨今は、企業らしさを、外観ではなく働きやすいオフィススケープの創出と運用で語る傾向がある。他にも、昨今の交通ターミナルや空港では、効率性の視点は残るものの、通過点ではなく、滞留時間を増やす趣旨で地域性の演出に意を用いているようだ。
以上のような認識は、まもなく100周年に達する安井建築設計事務所の道のりを振り返りながら得ることができた。幸いなことに、かつて手がけた建築を改修するケース、同じ敷地で建替えるケースには恵まれている。ここでは建築の機能は同じでも、計画を選択する基準が変化しているのが興味深い。まさしく、建築の類型が歳月の中で進化しているのである。また、既存建築が別の機能に転換されて生き延びる例も増えてきた。こういう移り変わりを目撃できるのは、なんと幸せなことだろう。

佐野吉彦

駅は交わりの場へ。

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