2021/01/27
No. 755
その就任式典はなかなか豊かな内容であった。アメリカ合衆国・ジョー・バイデン第46代大統領は、民主主義の価値を再確認し、対立を乗り越え、人々の心を結び合わせようとするみずみずしいメッセージを語った。このスピーチと、大統領と副大統領の宣誓が2時間ほどの式典のクライマックスとなる。そのほかにも式典のプロトコルには様々な手順が盛り込まれているが、今回鮮やかな印象を残したのは、アマンダ・ゴーマンだった。式典の始まりをレディ・ガガによる国歌斉唱が晴れやかな空気で満たしたのと比べると、終盤に登場して朗読された詩「The Hill We Climb(私たちが登る丘)」は、新大統領のメッセージをしっかりと大地につなぎ留める役割を果たしていた。
アマンダは2017年に全米青年詩人賞を受賞した若い詩人である(1998年生)。光を見る勇気を、光となる勇気を。彼女は困難を乗り越えて希望を持ち続けることの大切さを、紡ぎ出した。その詩はリズミカルに韻を踏み、ウォルト・ホイットマンのような格調があり、ハート・クレインの詩(The Bridges)のようにアメリカの各地方の歴史的特色をうまく織り込みながらまとめていた。一方で語る声はよく練り上げた詩を自ら乗り越えるエネルギーを宿している。同世代であるパキスタンの活動家マララ・ユスフザイからも影響を受けたというアマンダには、荒野に呼びかける声がある。
就任式典での詩人の登壇は、J・F・ケネディに招聘されたロバート・フロストに始まって民主党の大統領での伝統であるが、詩を組み込むのはとても効果的な趣向である。それも含めて今回の式典はアマンダ抜きでは考えられないもので、詩の力をまざまざと見せつけられた感があった。それが滑り出しのいち早いアクションを後押ししたとも言える。日本でも試みられてよいかもしれない。