建築から学ぶこと

2010/01/20

No. 213

この国の年の初め

各地・いろいろな機会で聞いた、年初のメッセージには勢いよさが足りなかった。当面の景気の二番底が避けられそうな見通しがあっても、先行きが向かい風なのか追い風なのかわからないという認識が、背景にあるようだ。それもあってか、経済団体のトップなどは、あまりポジティブな表現を使わない。一方で、時おり見かけた、強めのメッセージを語るひとには、景気浮揚や事態改善への具体的視点が伴っていなかった。どこを見ても戦略観を欠きながら、2010年がスタートしている。

確かに日本は、約束された未来を感じにくい局面にいる。それは凡そ認めよう。ただ、誰もこのままでは生き延びられると思っているはずもないのに、現状の停滞を引き起こした「他者」への批判だけがかまびすしいのではいけない。そのように決して踏み出さないひとたちはさておいて、各分野のプロフェッショナルには、視界良好でない状況を、保有する技術と視角によって、切り拓いてゆくミッションがあるはずだ。政策や景気といった「他律」によって行動にかかわる判断をするというのでは、プロフェッショナルとしての主体性はないと言ってよい。

建築のプロフェッショナルには、さまざまな事態を冷静に捉え、建築がもたらす効果を活用して、時代と社会を大きく転回させることが期待されるだろう。大規模災害からの復興プロセスでは、特にそういう役割である。約束も予測も成り立たない状況を見極めながら、しかしきちんとしたバランスを維持し続けることが、われわれ建築界が得手とする走り方であり、求められるミッションである。カタチが新規であるか保守であるかというより、自覚的につくられているかどうか。そして、ビジネスとしてのプロセスが適切にマネジメントできているかどうか。ふたつの力の統合が重要になる。発注者サイドに先立っての<鋭い自覚性>が求められる2010年の年初めである。

佐野吉彦

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