建築から学ぶこと

2011/03/02

No. 268

そのまちにあった意思と感情

京都は近代産業の揺籃の地である。明治以降、琵琶湖疎水が導く豊富な水量、鉄道の充実が伝統産業の土壌に近代の技術を育てた。その発展と響きあうように、そこにモダニズム建築が開花した。幸い、第二次大戦の爆撃が限定的なものに留まったことで、産業もモダニズムも温度が保たれて戦後から現在へと連なることになった。こうした流れを追う試みが、京都工芸繊維大学美術工芸資料館で開催中の「もうひとつの京都−モダニズム建築から見えてくるもの−」である(5月10日まで)。そこでは1920年代から1970年代の17作品が紹介され、出自の異なる建築家が京都とどのように向きあい、それぞれの魂がどのように受け渡されたのかを明らかにする。

会場はすぐれた切れ味の写真(市川靖史さん)と入念につくられた模型(主として学生たちの手による)のほか、設計図、デザインされた椅子(森田慶一の楽友会館など)や建築家自身のスケッチ(増田友也など)が建築家の手跡をリアルにあらわしている。展覧会は松隈洋さん(京都工芸繊維大学美術工芸資料館教授)がひとつひとつの現・所有者に協力を求めつつまとめあげたものだが、建築の学生はもちろん、京都で学ぶすべての学生のリベラルアーツとしても活用されてよい内容となっている。それは、発注者の望むところを受けとめて造形する建築家のミッションについて考察する機会を与え、具体的なかたちを手がかりとして地域の近現代史を掘り下げる機会を提供している。

会場にはすでに失われたモダニズム建築(京都朝日会館など)についての言及がある。今後を考えるときに、メインの17作品とても、単純に保存を訴えるには事態は楽観的ではない。留意すべきなのは、どのような視点をこれらの建築に対して投げかけるかではないか。大切なのは、過ぎ去った時代にあってひとりひとりの人間が抱いていた意思と感情にきちんと敬意を払うことである。京都の建築史は人が織りなしてきたものだから。

佐野吉彦

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