建築から学ぶこと

2022/12/21

No. 849

つなぐ場所、前橋

30年ほど前、初めてシンポジウムのモデレーターを務めた。事前の準備はきちんとこなすとして、本番での注意力も節度も大事である。ここで建設業各分野のスピーカーの話をうまくつないだ経験はその後の自信になった。会場であった前橋はその意味で私には大事な場所である。この日の手ごたえとともに、中心部の馬場川近くでの二次会の楽しい記憶も残っている。
さて、安井建築設計事務所が少し前に設計監理に携わった「前橋地方合同庁舎」(2015)はこの街の台地上を走る表通り沿いにある。この表通りと並行しながら、台地を少し降りたところを並行して流れる細い用水が馬場川で、これに沿う通りは詩人・萩原朔太郎にゆかりがある。12月に前橋を久しぶりに訪れ、同じく表通りに面する、藤本壮介さん設計の「SHIRAIYA HOTEL」(2020)を訪ねると、すぐ裏の川沿いの道との高低差を階段道や緑の斜面でやわらかくつないでいた。ホテルを閉鎖的にせず、人の流れと活力を自然につなぐ役割を持たせたのは効果的である。ちなみに、隣地で工事が進んでいる谷尻誠さんのプロジェクトがどう連続するのかも楽しみである。
これらの位置から、馬場川を挟んだ斜め向かいにあるのが「アーツ前橋」(2013開館)で、この日は「潜在景色」と名付けられた、6人の作家の写真作品を扱う展覧会を見た(3月5日まで開催)。それぞれの近作だけでなく、自らの拠点を離れて前橋をフィールドにして制作した作品が静かな光を放っており、キュレーションが明確である。アーツ前橋はこの地のアート活動を率いる運動体でもあるが、ここだけでなく、前橋には文化における底力や人材の豊かさがあるようだ。それらに共通するのは過去と現在、地域の内外を<つなぐ力>ということになるだろうか。私は、どうしてもそこに、個人的な思い出を重ねてしまうのだが。

佐野吉彦

まさに、潜在していた景色

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