建築から学ぶこと

2013/02/27

No. 364

知恵と情報が磨いたもの

長い歴史を持つ仏教は、第二次世界大戦の前には、仏法という呼び方が一般に使われていた。宗教とは宗派のことを指していたという。仏教は、釈尊が見いだした「法」を受け継ぎ、論理の積み重ね・掘り下げが進んだ歴史を通して成熟していった(*)。そこには一般人が寺院を訪ねるときに感じる親しみやすさとは違う「深み」があるようだ。

キリスト教もイスラム教もある地域に興り、現実と向きあい地上を旅しながら、論理を磨き、大きな成長を遂げた。そのなかで「絶対者と人が出会い近づく場や手順」・「信仰の手引となるモノやカタチ」を開発してきた経過は良く似ている。どの宗教も初期に組み上げられた論理によって固有の建築様式を確立しているが、民衆や社会に根を下ろすなかでチューンナップをおこなってきた経緯がある。論理の抽象性と、伝道するにあたっての具体性のあいだで、建築は試行錯誤してきたのである。宗教そのものは磨きがかけられてきた一方で、聖なる空間が受け継いできた人類の歴史、あるいは人と神との交流の歴史が削り出した知恵と知識は、結果として聖なる空間を読み取りやすい表情に変化させたように思われる。

さて、昨年から山本能楽堂(大阪市中央区)の改修設計に従事している。国の登録有形文化財である能舞台(室内)は、観客席の「俗」を静かに制する「聖」の位置にあって、抽象的でも具体的でもある独自の存在感を示している。そこに宿る多くの知恵と情報。改修の主たる目的は耐震改修や設備改修であるのだが、この空間に何を加減するかは、宗教建築がたどった道と同じような重要な知的取り組みとなる。ひとつの改修工事のなかに、この舞台での活動(能以外の芸能にも使われることがある)が今後どのような可能性を有するか、建築そのものが新たな展開を見出すかという2つのテーマが宿っているからだ。

 

* 平岡龍人さん(清風明育社理事長であり真言宗の住職である)からの教示に基く。

佐野吉彦

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