建築から学ぶこと

2012/12/19

No. 355

日本でのかたちも、アジアへのかたちも

2012年の初冬は衆議院選挙の季節となった。それにしてもこの稿を書き始めた投票前日の段階でさえ、街頭では熱気がなかった。経済政策や成長戦略をめぐっても、社会保障についてもあまり論点になっていない。この国の将来像を各党がどう描くかは重要なところだが、いまからTPPと消費増税を見直すという主張はありえるのか。震災復興や原発廃止・再稼働の問題は政争で扱うものではないように思える。公約の中では、自民党の憲法改正試案や国土強靭化などのキーワードが、不思議さを伴っての目立ち方をしていた。いずれにしても、政権選択選挙にしてはどうにも内向きの選挙戦を終えて、自民党は政権を取り戻すことになった。

やや古い話だが、下野する前の安倍内閣の政策に<アジア・ゲートウェイ構想>(2007)というものがあった。アジアとどのように結んでゆくかを問いかけたはずで、UIA2011東京大会はそこに位置づけられることになったのだ。大会中は日中韓の関係が安定していたこともあり、結果としてアジア諸国から多くの参加と協力が得られた。<構想>は有効だったように思うが、政策継続が途切れたのは惜しい。昨今のように、アジアとの関係をきちんと編みなおすべきタイミングにおいては、特にそう感じる。

この1・2年は私自身も何度か新興アジア諸国を訪れる機会があったし、日本の多くの建築家も当地での新たな縁を見出し始めた。災害と復興を経験した日本、繊細な表現を持つ日本には大いに期待があるはずだ。それなのに、国も建築団体もまだまだ個々の活動をサポートする力は十分ではない。専門家資格のモビリティには現実的な障壁があり、APECアーキテクトについても成長の途上である。日本を含むアジア諸国の専門家が実質的に共存共栄する必要が高まっているいま、「民」の視点で健気に乗り出す建築家たちのために、度量の広いプラットフォームを整備したいものである。新・安倍内閣にはぜひ外向きの視野を期待する。

佐野吉彦

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