2018/01/24
No. 607
新幹線と高速道路のネットワークが整備されるに従って、日本の都市景観は小ぎれいなものになっていった。いわば、それぞれの都市の近代化目標が成果を収めてきた風景でもある。一方、それを牽引してきた公共投資は、1990年代の後半をピークとして、すでに減少に向っている。これからは「近代的風景」の再活用、時代に合わせた再編集が課題となってくる。その状況のなかで、地方都市はどのようにしてしぶとく生き残るのだろうか。
そのためには、公共投資に頼らない、地域経済を支えるあらたなしくみを育てる必要が生まれるだろう。その成功例がもともと木材・木製品製造が盛んであった岡山県真庭市で、近年「木質バイオマス利活用」に重点的に取り組んできた成果がめざましい。成功のポイントは企業誘致ではなかった。地域が主役になって、商品製造から流通までを完結させるために産業連関を進め、これに域外市場産業をうまくリンクさせたのである。地域の内外の資金の循環をスムーズに繋いだ視点は優れたものである。その知恵は、真庭市のなかに地域再活性化を担う人的資源と社会関係があったところから生まれている。当地で立ち上げた「21世紀の真庭塾」がきっかけをつくり、やがて息の長い官民連携が実を結び、今やバイオマスタウンを観光の目玉に仕立てあげた。真庭のような手順を踏んだ取組みは、国内外を問わずさまざまな地域で参照しあうことができるのではないか。
これからの地域においては、公共サービスの質が落ちない工夫が必要とされている。コンパクトシティ化には公共交通システム再編が伴い、病院を統廃合する替わりに、使いでの良い地域包括ケアシステムの構築が期待される。だが、それらのねらいは、教育や健康維持の条件を満たすことによって、人が地域において前向きな姿勢になることである。人材こそがあらたなしくみづくりを支え、地域を変える。
※本稿は「まちづくりとしての地域包括ケアシステム」(辻哲夫監修:東京大学出版会2017)を参考とした。