建築から学ぶこと

2008/04/02

No. 126

1923年が語ること

1919年(大正8年)、日本で初めての建築にかかわる法規として、都市計画法と市街地建築物法が誕生した。そのタイミングを待っていたかのように1923年(大正12年)に関東大震災が起こる。震災復興とその後の都市発展に必要な道具立てが間に合ったことになる。2つの法規は日本建築協会を創設した片岡安らによる民間の発意から始まったものであることは第110回で触れたが、この時期にあった社会改良への志がその成立を促進したと思われる。

同様の努力で1923年にできあがったものが、現在もアクティブな「民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款」である。これは民間の建築工事を実行するにあたっての役割と責任を取り決めた内容であり、急速な日本の近代化のなかにある建築プロセスを明瞭にしようとする民間側の鋭く切実な問題意識が出発点にあった。当初は4つの団体(建築学会・建築業協会・日本建築協会・日本建築士会。当時の名称による)の協調によって進み、現在は3団体が参加して現実的で漏れのない成果を育ててきている。昭和26年、建設省がこの約款に正式な位置づけを与えたのは、内容の充実に加え、そこに正当で着実な視点を認めたということであろう。

さて、日本の建築にかかわるシステムが問い直された1923年は、ロシアでは革命の実験の季節の真っただ中にあった。1917年にロマノフ王朝を倒したソヴィエト革命政権は、ひとまず経済の混乱の収拾に動いたあと、やわらかい国家のかたちを選択せず、レーニンの死去とスターリンの継承の1924年を節目として、冷厳な国家システムへの移行を加速してゆく。そのとき、民意はどこにあって、何を望んでいたのだろう。この時代に世界の各地で起こったできごとは、いろいろなことを教訓として語りかけるように思う。とりわけ大切なのは、制度や法律が時代の流れの中で不幸な変化を遂げないよう、民間の側が提案能力を育んでおくことであり、また適切に保持するための努力を怠るべきでないことである。

佐野吉彦

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