2007/07/04
No. 89
富山市内からは、立山連峰がすぐ近くに望める。美しいだけでなく、稜線の刻みは小気味よい歯ごたえだ。前景に豊かな田園地帯を対置させても、工場群の景観を重ねてみても、不思議にフィットしている。実際にも、この地の産業はこの山塊に蓄えられた水の恵みを受けている。豊富な水量は、神通川・常願寺川・黒部川・庄川・小矢部川という一級河川を介して、平野と平野の生活を潤す。とてもダイナミックな連関である。
その立山から剣に向かう峰々を縦走した経験がある。剣岳の西北の肩である、長く深い早月尾根は、20年程前ながら、ずしっとした印象が残っている。富山に来ていつも甦るのが、この「山の重力」にかかわる記憶である。さらにひとつ、魚の味も、富山の印象を培養する上で大きい(とりわけ、寒ブリ)。暖流と寒流が出会うところに、海底の急峻な傾斜。富山の山海は一体となってこの地を豊かにしている。おそらく富山は、環境問題にかかわるソリューションを試みる上で、好ましい位置にあるのだろう。自然の恵みをいかに活かすのか。地域の自然の循環・経済の循環を適切に組み合わせる方策を、具体的に考えることができる場所が富山だと言える。
それと関連した成果が「富山ライトレール(ポートラム)」。JR西日本富山港線を買い取り、2006年に営業開始した8キロ13駅のほどのシンプルな路線である。特徴の第1は使いやすさ。LRTに変換してあらゆる面で低負荷になった。富山駅北口にある始発ホームはこれまでと位置を変え、市内経由とするなど、経営的に実効があがることも考慮されている。特徴の第2はデザイン性。異なる7色の7車両も、電停のしつらえも、親しみやすく快適である。いずれも、表示の明瞭さも含め、コーポレートアイデンティティを形成しようとする志が高い。そのことは市民にも支持を得ているようだ。適切なデザイン管理が伴ってこそ、適切なソリューションがもたらされることを証明する好例である。
富山ライトレールには、駅南を走る富山地方鉄道市内軌道線との接続構想がある。より利用度は高まるだろう。LRTが市の交通と風景の主役を担うとき、富山の地域づくり戦略は大きく進展する。