建築から学ぶこと

2009/05/01

No. 179

人の動きが生み出す幸せ

人が媒介して発症するのが伝染病だとわかっていても、いまさら人の動きは止められない。WHOによる警戒レベルの設定は、そのことを前提としている。動かないほうが良いのか?一方で、世界的試練の中で開かれるWHOの総会に中国と台湾の代表団の同席が実現、という画期的な成果が生まれている。両国の人々はからみあうように世界を歩き、世界に散る。そうした現実の先行によって、ともに取り組むべき課題が共有されていた。リスクであるはずの移動が実は融和を作り出していたのだ。

さて、ある文化の影響の中にいる人が、それとは異なる土地に立つことの意味とは何だろうか。それは、単なるビジネス活動や知識の習得であることを越えるものがある。異なる文化の地にいることでその人が「染まる」ことがある一方で、異なる文化をその人自身が「染める」ことの両方がここにある。それを制圧する・されるといった目で捉えたがるのは、集団の論理である。個人と土地との相対的関係は、いつもダイナミックに変わっており、そこにさまざまな可能性が潜む。

たとえばKDa(クライン ダイサム アーキテクツ)が切り出す視点は、日本の都市空間からあざやかな瞬間を引き出しているように感じられるが、それは日本の空間が契機となってKDaが新たな方法論を生み出すことでもあった。現代の日本人が、鎌倉にあるカヤックのオフィスでの卓抜なソリューションを見るのはとても幸せなことだと思う。しかしながら正しくは、ふたりの表現にあるとおり、ワン・アイディアの強さがここにあるというべきであろう。見事に出会うなら「染まる」・「染める」のどちらであっても構わないことなのだ。

人が動いたことのあとには、確実に何かが起こる。そして、人は強さを、文化は豊かさを獲得する。

佐野吉彦

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