建築から学ぶこと

2023/02/22

No. 857

新千歳空港駅の記憶

1992年、新千歳空港ターミナル供用開始に合わせて、JR北海道の新千歳空港駅が開業した。1987年に民間企業としてスタートを切ったJR北海道はデンマーク国鉄と業務提携する。その取り組みの初弾として、地下にある新駅のデザインを、安井建築設計事務所を含むチームでまとめることになった。デンマーク国鉄は、デザイン担当の理事イェンス・ニールセンのもとで、車両・駅・グラフィックなどのビジュアルを共通のコンセプトでマネジメントしていたが、彼からその視点をこの駅に盛り込もうとの提案があった。
JR北海道のディシジョンは明確だったが、実際にはなかなかのチャレンジだった。保守・維持管理・窓口業務といった建築の管轄外の事項の賛同を得なければデザインは完結できない。ニールセンも札幌に腰を据えて取り組んだが、私も彼の人格と、その座右の銘「デザインは眼に見える知性である」(もとはフランク・ピックの言葉)に惚れ込んでこの仕事の結実に汗をかいた。結果として、この新駅はJR北海道にとっての象徴的なアクションとなり、多くの受賞につながった。優れたデザインが人(社員や利用者)の心を動かし、経済を動かす手ごたえには、様々な鉄道会社も関心を抱いたはずである。たとえば安井建築設計事務所が設計担当したプロジェクトでは、京阪中之島線や西九州新幹線長崎駅のようなプロジェクトも新千歳空港駅の成果がなかったら実現できなかったかもしれない。
残念ながら開業30年近くになってこのデザインは改装されてしまったが、社会における使命を十分果たすことができたと思う。当社には、駅に設置されていたアート(デンマークのアーティストで、ニールセンの畏友のペア・アーノルディによるもの)を一部譲り受けたものがあり、日々目にすることができて幸せである。私がデザイン・マネジメントの真髄を学んだかけがえのない経験だったからである。

佐野吉彦

新千歳空港駅(改装前)

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