建築から学ぶこと

2014/07/02

No. 431

はじまりの一歩から、続けての一歩へ

前回触れた建築士法改正のもうひとつの意義とは、国会議員が発議した法案というかたちになったことである。建築界と建設官僚の外に議論を拡張したプロセスによって、結果として建築の専門家の立ち位置が明瞭になった。もちろんこれは終着駅ではない。社会資本をつくるためのリーダーシップを建築設計者が務めるという覚悟があるのなら、修正・設置しなければならない法律や制度はまだまだある。たとえばストック再生や景観保全のためのルールづくりなどは、専門家各自の創意が好ましい成果を生むためにも、さらに踏み込んでゆくべきではないか。そうした行動を進めることが社会から期待されなくてはならないだろう。改正建築士法の意義が社会に理解されたなら、今度は社会の益のために力を注ぐのは当然である。

アメリカ建築家協会(AIA)はこれまで環境や社会問題、労務環境改善などさまざまな政策提言を議員・議会におこなってきたが、その推進の片方の車輪にはArchiPACという名の政治行動委員会があり、もう片方にはGrassrootsという政策提案力強化委員会がある。この両輪による体制が参考になるところは、後者が、専門家が日常の仕事のなかで育む問題意識を大きなうねりに変える可能性を大切にしていることであり、その実現のために訓練を積むことを促していることである。ある意味で民主主義の可能性に期待している。日本の建築士法改正実現も、そのような自発的な動きを誘い出すきっかけにしたい。

このAIAの2014年の大会が6月にシカゴで開催された。この大会の中で各国の建築家団体が議論する場があるが、今年は12か国による<シカゴ建築家宣言>が採択され、私は日本代表として署名してきた。世界に起こる多くの課題に向きあって共同して取り組もうというシンプルな合意である。それも小さくて確実な民主主義のはじまりである。署名は義務を負うものではないが、大きな覚悟にはなる。

次回はシカゴをめぐる話題を続ける。

佐野吉彦

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