建築から学ぶこと

2009/09/30

No. 198

環境問題と歴史観

今年、第25回・講談社科学出版賞を受賞した大河内直彦・著「チェンジング・ブルー」は、サブタイトルにある通り、<気候変動の謎に迫る>好著である。今日喫緊のテーマでありながら結論を急ぐのではなく、ここ半世紀ほどの研究者の知的探求をひとつひとつ、すがすがしさを感じる描き方で追っている。酸素の「弟分」である酸素同位体がどのように偏在し、どのような挙動をしてきたかを正確に見極める作業に始まる歩みは、やがて気温の変動や海洋深層水のダイナミクスを解明する旅へとつながってゆく。とは言え、著者は自らを「暗号解読班という役割である」と謙虚に述べている。

現時点で明らかになったことは、地球というシステムが、氷河期と間氷期の交代という、一定間隔・線形性のリズムをベースに置いてきたこと、一方で、非線形性のふるまいをする局面がその安定的リズムを駆動させたり、狂いを生じさせたりしてきたことである。おそらく、現代のわれわれが向きあう深刻な課題とは、二酸化炭素の増加そのものでも、その増加が気候変動を直接起こすことでもなく、人類が非線形性のふるまいを引き起こしてしまうことにある。過去に地球も人類も、急激な気候変化という非線形のふるまいを経験して苦しんだことを思えば、線形性の変動と非線形性の変動を過たずに見極めて対処しなればならない。

いま、包括的に<地球環境をどうするか>という意識が浸透してきたのは歓迎すべきことであろう。ただ、地球に関わる事実や正しい歴史観が理解・共有されていないと、環境問題の本質を的確に捉えることができない。例えば、気候変動による国家やコミュニティの解体懸念というテーマは、重大でありながらも、環境問題そのものとは区分けして扱われるべきものだ。科学者の冷静な知見が、たとえば政策の次元に照射されることは、とても重要なことなのである。

佐野吉彦

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