建築から学ぶこと

2020/12/09

No. 749

場の力―佐賀町エキジビット・スペース

かつて東京都江東区に、佐賀町エキジビット・スペースという場所があった。その名のとおり、アートの展示空間である。1983年から2000年の間、美術・デザイン・建築・ファッション・写真などの俊英たちが勝負を賭けていた。開設と運営に携わった小池一子さんの表現によれば「美術現場」である。今から振り返れば、多くの俊英が大家へと育つきっかけをつくった場所とも言えるが、当時からこの仕掛け自体を世界が注目していた。20世紀におけるアートのギアチェンジは、これまで世界の様々な場所が担ってきたが、その時期のフロントランナーが佐賀町だったのである。

80年代前半の東京は開発気運に満ちていて、隅田川の東にも眼差しが向けられ始めていた。その時点での食糧ビル(1927)の3階講堂の修復活用というアイディアは新しい着眼点であり、都市開発に新たなヒントを与えたと思う。だが小池さんはそんなことより、魅力的な空間と、それを成立させた技術者たちの「志の高さ」に純粋に惚れ込んだのである。それが、志のある「エマージング(伸び盛りの)・アーティスト」の魂をゆさぶるイメージを持ったのではないか。群馬県立近代美術館での「佐賀町エキジビット・スペース1983-2000」展(12/13まででは、活動のアーカイブ紹介とともに、かつて出展された作品がいくつか再登場している。いずれの作家も、空間から大きな刺激を与えられたようだ。正確に言えば、若い作家はこの空間と向きあうことによって、エマージングという形容にふさわしいチャレンジをし、世界から注目を集める存在になったのである。

佐賀町という「装置」が失われたのは残念ではあるが、その時代にふさわしい仕掛けというものはあるはずだ。その意味では、佐賀町のアーカイブは回顧するためにあるのではなく、これからの企みに力をもたらすためにある。

佐野吉彦

会場:群馬県立近代美術館(設計は磯崎新1974)

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