建築から学ぶこと

2011/05/18

No. 278

都市は楽しみとともにあり、リスクとともにある

ニューオリンズの魅力は、フレンチ・クォーターを歩く楽しみにある。どこからか音楽が流れてくるヒューマンなスケールと空気は快く、程よい雑然さも好ましい。その個性に加えてこの街は2005年のハリケーン・カトリーナ災害の地として知られるようになった。滞在中に訪れたルイジアナ州立博物館での「Living with hurricanes: KATRINA & beyond」展では、災害時のビデオや展示のなかに、広域の洪水とカトリーナそのものも凄まじさが丹念に記録されていた。

この街が被った悲劇はこの地に都市という橋頭堡を築いてきたことのメリットと裏腹の関係にある。訪問直前には近くで竜巻の被害もあり、滞在している間に増水したミシシッピ川の水流は徐々に下流に迫ってきていた。この街はいつも覚悟を決めてどのように都市とその文化を継続するかを問うている。それは人類にとって普遍的な課題と言えるのではないか。社会の形成とはリスクを伴うことでもあるが、社会を正しく継続すればリスクも避けられる。カトリーナからの復興にひとまず目鼻がついてきたこの街を訪れたのは、AIA(アメリカ建築家協会)大会に参加することが目的だったのだが、ここでは建築家は災害とどのように向きあうかについて意見を交えることになった。

おそらく、起こりうる災害の内容は国や地域によって事情が違う。行政の対応も、備える体制も鍛えるべきノウハウも一般論では括れない。まず重要なことは専門家として意識を共有することではないか。危機における行動とは、日常から着実に仕事に取り組み、地域と適切な関係を結ぶ基盤のうえに、災害時の行動ルールを絞り込んでおくことではないか。災害とは当たり前のことを確認する機会なのである。それゆえに、異なる文化で育った建築家がともにプロフェッショナリズムの原点に立脚して議論することに重い意味があるのだ。

ところで、ミシシッピの増水は、この街の上流域に生息する動物、生息数が管理されているワニなどの生態系に影響するようで、ニュースでその警戒を呼びかけていた。災害管理と生物多様化の実現も、どこでバランスさせる必要がある。それも人類が引き受けている課題だ。

佐野吉彦

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