建築から学ぶこと

2013/12/11

No. 404

その論争から学べることはいくつもある

東京オリンピック開催決定で盛り上がった今年だったが、最終プレゼンテーションの映像で新国立競技場のデザイン案を初めて知った人も多かったと思う。そこから一連のデザインをめぐる論争も、大きな広がりを見せた。きっかけは槇文彦氏による問題提起「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」(JIA Magazine 2013.8)だった。原稿はずいぶん前にまとめられていたと聞くが、開催決定に絶妙なタイミングで間に合った。その後開かれた10月5日のJIAによるシンポジウムが大きな動員を得たこともあり、珍しく建築とデザインをめぐる話題が一般紙でも取り上げられるようになった。

論争の主たる対立軸は「巨大すぎるスケール感」対「国際レベルの競技場は必要」といったところだが、プレゼンテーション時点のパースは決定案ではないので、技術的には設計プロセスの中で着地点が見出せそうに思われる。むしろこの論争で社会に知られることになった建築にかかわる指摘・論点を放置せず、実を挙げることが重要ではないか。例えば、まずひとつ、2020年以降をふまえ、整備される施設・公園・緑地等をどうネットワークして都市を再編成するかという観点が未成であること(藤原徹平の指摘による*1)。環境先進都市であるはずの東京は、孤立した拠点の更新を都市計画の好機とすべきである。その成果は東南アジアの手本となるであろう(村上周一による*2)。

さらにひとつは建築設計に先立つ「プレデザイン」の弱さが明らかになっていること(藤原*1)。オリンピック施設に限らず、施設の計画にあたって社会的合意が十分形成されていない現状が指摘されている。もちろん、それは今から積極的にマネジメントすることによって再整理可能ではないか(小野田泰明による*2)。とりわけ、トップアスリート育成と市民スポーツ振興の好循環を起こすために、建築に何ができるのかを追究することはかなり重要である(鈴木寛による*1)。

 

*1「春秋」春秋社2013.12 *2「日経アーキテクチュア」2013.12.10

佐野吉彦

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