建築から学ぶこと

2009/05/27

No. 182

人を導く建築

以前、アイディアコンペの審査でご一緒した香山寿夫さんが、技巧に走りがちな提出作品をめくりながら、建築はもっとプライマリーであるべきだ、と嘆じていたことを想い出す。香山さんとは、生い立ちに始まる歩みのなかで、建築の素形を探し求める問題意識を育み、作品や著作の中で、それを結実させてきた人だ。

香山さんが、師でもあるルイス・カーンと共通するところは、建築とは共同体にとって適切な導きの役割を果たす造型でなくてはならないと考えていることであろうか。それは彼らが格闘したアメリカにおいて、最も受容されるにちがいない視点であった。

実際、アメリカは、国家の形を整えてゆくにあたって、建築の意義をただしく理解した国だ。1879年に設立された設計事務所マッキム・ミード・アンド・ホワイトは、その主役を務めた設計組織であり、ニューヨーク市庁舎やボストンの公共図書館などにおいて、その施設に期待される使命を、正攻法で、しかし香しくまとめあげていた。香山さんは著書「建築意匠講義」の中で「都市は、通常は、私たちにとって、つくる対象である場合よりも、解釈したり、選択したりする対象であることが多い」と記しているが、今も多くが健在であるマッキム・ミード・アンド・ホワイトのニューヨークの作品のありようこそ、都市史を語るだけでなく、アメリカの精神を具体的に示す良好なテクストだと言える。

実は、学生のころの私は、この組織と作品についてほとんど印象がなかった。モダニズム以外のアメリカ建築については参照すべき資料が少なかったからかもしれない。小林克弘さんの、東京都立大での門下・中原まりさんは、小林さんの指導を得てコロンビア大学ロー・ライブラリーの形態分析に取り組み、国を渡って資料を渉猟してついに読み解いた第一歩を持つ人で、この作業が中原さんの建築アーキヴィストへの道を切り開いた。人の問題意識を芽吹かせ育てるには、師も大事、真摯なプロセスも大事であるが、人をただしく導く建築の役割も見逃せないのである。

佐野吉彦

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。