建築から学ぶこと

2011/12/21

No. 307

暦の力

1年という時間は良くできた単位だ。政治も経営も教育も、またプロスポーツも1年をひとまわりとして動いている。そのなかでステップを切りながら目標を達成し、成長度を計りながら人を育ててゆく。12月は、多くのケースで年次の途上にあるので、年の暮れとは本当は気を抜くことのできない月である。

それでも12月はクリスマスがあって正月が続くという落ち着きのなさに揺さぶられる。もともと、クリスマスは12月25日であるとは聖書に記されていない。寒空の下で生まれたことにはメッセージ性があるように見えるが、冬至を祝う習慣と後年結びついたようだ。いつしか、1年のなかで最も光が失われる時節に生まれたイエスが光を蘇らせる役割を担った、という物語が完成した。他にも、月の満ち欠けによって春の復活祭が定められるなど、西洋の「暦」には聖書をめぐる物語が関連づけられている。分かりやすいビジュアルなイメージを毎年反復することによって、節目がめぐるたびに記憶と確信を強めることになるわけである。

節目とは1日だけに留まらないもの。それは「節目期間」として設定されることによって、クライマックスの日の効果が発揮されるように工夫される。クリスマスも直前に4週間の「待降節」を置くことで空気が醸成され、祇園祭も博多の山傘も1ヶ月続くことでゆっくりと禊ぎがおこなわれている。ニューヨークシティマラソンも、前日までの1週間にはさまざまなランニングイヴェントが企画される。そのような大勢が協力しあう「ハレ」の期間は、「ケ」の期間にある日常的で穏やかな風景を支えている。節目期間の集中力こそがコミュニティを強めるものだと言えるだろう。建築や都市のハードをうまくつくることと、「暦」をメリハリつけて活用することとは響きあう関係にある。

佐野吉彦

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