2023/03/29
No. 862
日本建築士事務所協会連合会・創立60周年記念誌が手元に届いた。後述するように、私が登場する冊子だが、手に取って当たりが柔らかい仕上がりは期待以上である。4つの座談企画を目玉としており、紙面各所に、創意工夫によって設計者の生き残りを図っている30-40代が登場している。建築の専門家には「法定資格による業務独占」はあるとしても、この冊子では、プロジェクトのスキームづくりや領域横断しての取組み、BIMはじめデジタルの活用など、実は設計者とは積極果敢であるところにスポットを当てている。決して普通の仕事だったらお任せくださいみたいな悠長な話はしていない。たくましいアピールができているのではないか。
さて、私は「災害経験から何を学ぶか」を扱う座談のコーディネーターだった。宮城・千葉・岡山・熊本から話者が参加して、地震や風水害など異なるタイプの自然災害にいかに対処し、得た教訓をどう展開したかの知見を引き出す役割だった。ある程度は災害対策を持っていたところもあり、手探りだったところもあった。総じて、いずれの話者もステークホルダー連携の仕組みを短時間で整え、リーダーシップを発揮していた。その創意工夫と決断の過程を語ってもらうのが主眼だったからか、この座談だけはやや平均年齢が高めである。結果として、地域の危急時にはベテランが率先垂範している姿は、社会的責任を伴うアピールとなっていた。
座談で私が腐心したのは、地域固有の事情から普遍性ある知につなげるところである。実際に、異なる経験談をクロスさせてみると、自らの仕事のBCP、防災意識を啓発するための社会参画、専門家団体の使命といった論点に自然に収斂してゆくものだ。コロナ期間中の編集企画だったが、やはり人が集まることで新たな知が生まれる。そういうメッセージを含んだ冊子だった。