建築から学ぶこと

2020/04/29

No. 719

問い直しの局面と、ポール・サイモンの人生と。

この23か月ほど、世界は新型コロナ感染症に向きあい続けている。第716回で扱ったように、建築をめぐるさまざまな手順も大きく変化しようとしている。そのあたりを俯瞰して日刊建設工業新聞(4月24日)に記事を書いた。そこでは「建築主や行政を巻き込んでのデジタル改革に取り組みを進める好機ではないだろうか」と強調しておいた。「建築計画そのものの変革も重要である」と踏み込んだ。建築の専門家はずっと、時代の変化、地域・社会ニーズを先取りしてストレスのない空間とは何かを追究してきたのだから、いまこそ建築を問い直すことは重要。いや、これこそさらに好機とすべきであろう。

リモートオフィスはすでにチャレンジが進んでいるが、記事では今テーマになっている事項としていくつか挙げてみた。すなわち「WEB会議の普及でオフィスのありかたはどう変わるか、<社会的距離>確保は人の集まり方を変えるのか、平時からのサーモグラフィ設置や感染を防ぐ措置をどう組み合わせるか」などである。建築のありかたには必ず、前向きな変化が起こるはずだ。このような事項が、建築計画や地域計画、またオフィス、医療福祉施設などの計画を通じて掘り下げが始まる。もちろん、世界が等しく感染症に向きあっているだけに、「グローバルな議論の活発化を期待したい」ところである。

ところで同じ2-3か月の間の私は、さまざまな分野の評伝に耽溺していて、4月後半は「ポール・サイモン 音楽と人生を語る」を読みふけった。彼は50年を越える音楽キャリアの各段階で異なるライバルとしのぎを削り、新たな協働者を得ながら、新境地を開拓していった。紡ぎ出す言葉のみずみずしさは変わらないけれど、創造者として、その局面に流されることなく、自らが主体的に変化しようとしてきたのである。建築の問い直しが始まるにあたって、この評伝は私に大きな力を与えそうだ。

佐野吉彦

うたのちから(ブルックリンにて)。

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