2010/09/15
No. 245
創業100年、200年と老舗が歴史を重ねてきたなかには、どのような苦心があったのだろうか。ブランドイメージを保つ視点からの、商品へのこだわりもしくは大きな革新。業容の維持あるいは拡大。後継者の適切な選択、また暖簾わけもあったろう。大火や地震を潜り抜けた例もあり、保有技術を活かして異なる業態に転換して齢を重ねた例だってある。いずれのケースであっても、老舗の建築は固定的でない。その活動の器である店舗、それが建つ場所には必ず変化変遷が生じている。
この事実は、悠々たる歴史が続く地域のなかにも、個別には振れ幅の大きな物語が潜むことを物語る。たしかに、今日ある老舗は、継続しようとする意思によって駒が進んできた。そういう意思についても、店舗の姿かたちは大きく変えないけれど中味を大きく変化させることと、活動を充実させるために条件の良い場所へ転出することとのあいだには、大きな違いがある。意思を透徹するにあたり、そこで土地と建築にかかわる積極的な選択がなされているのだ。
しかしながら、継続しようとする意思は、地域からの期待によって生み出されるものでもある。今日の「地域」の範囲は限定的ではなくなっているけれども、地域を裏切るかたちで老舗が生き残ることもありえないように思われる。次の世代に引き継ぐという決断とは、地域における責任を信じることとイコールである。ただ、求めに応えるためにそこに居ることにしたと言っても、時代によって、必要とされる内容が揺れ動く現実を受け止めることができるかどうかは鍵となる。
おそらく、建築における老舗らしさについて一概に定義はできないであろう。共通するのは、社会的な責任をどのようなかたちで示すかについて悩んでいる姿かたちである。