2006/11/01
No. 56
ナサニエル・カーン(1963-)監督による「マイ・アーキテクト−ルイス・カーンを探して−」(My Architect / A son’s Journey, 2003米)をDVDで見た。建築家ルイス・カーン(1901-1974)の息子である監督が、父の実像を求めて作品を訪ね、人を訪ねるストーリー(ドキュメンタリー)である。カーンについては、日本でも多くの作品集・著作が刊行されてきた。建築を学んだ者にとって、カーンの作品は細部に至るまでよく知られ、今も影響を与えつづけている。その謎めいた死は知られてはいるが、複雑な家族事情を抱えていたことはあまり知られていない。
監督は、美しい風景の中にきりっと立つ(建つ、じゃなく)父の仕事群に向きあい、時折とまどいをみせながら、少しずつ核心に迫ろうとする。あなたは誰なのか。いろいろな場面で何を感じていたのか。次第に明らかになるカーンとは、妥協のない人であり、人との関係性がとても「濃い」人のようであった。こうした、父と子の関係やルーツを丹念に解きあかすというテーマはアメリカ人が心を揺さぶられるもの。カーンの人生のデリケートな部分に触れながらも、全般的に、描き方はあたたかく、良質のユーモアも宿している。建築の知識がない人にも楽しめる、よく練られた映画と言えるだろう。
一方で、映像はカーンの作品自体の深みをもとらえてゆく。監督は終盤に至り、建築そのものへの畏敬を感じはじめた。父の人生におけるドラマ以上に、作品には強い力がある。それは人の心を動かし、社会を静かに変えた。建築をつくるとは、そういう使命のもとにある仕事なのだ。父と同じ「表現者」の道を選んだ息子は、この長い旅を通して自らが携わる仕事の使命を確認したようだ。
結局、父と子の関係が、いちばん濃かったのだろうか。