建築から学ぶこと

2011/08/27

No. 288

素朴な確信

校則が緩やかな中・高で育ったあと、大学4年で真鍋恒博教授に師事した当初は、そのはっきりした方法論についてゆくのに少しばかり戸惑いがあった。そこから大学院修了までの密な3年。親しくおつきあいする関係にある現在は、それは理系研究に当然の基礎訓練のことと振り返ることができる。特別なことがあるとすれば、それは定まったルールの伝授などではなく、目標に至るにはどういう「手順」を踏めば正しくゴールが見えてくるかを体得するために費やした3年間ということができる。私には、建築構法計画というカテゴリーのなかで暮らしていたことよりも、汎用性のある視点を獲得するために過ごしたことが重要だったのである(学問的貢献はさほどなかったかも!)。

確かに「手順」についての興味はもとからあった。その後続くプロフェッショナルの道のりのなかで、まずは個別のプロジェクトにおける「手順」の組み立て方に興味を持ち、何かを達成するためには、人と人が納得しあって無理のないプロセスをたどることが重要であるということに思い至った。さらに奥深いと感じたのは、異なる設計組織に備わる固有の「手順」を発見したときである。国内外を問わず、すぐれた組織には厳密なルールなどよりも、すぐれたプロセスが自然に卓越していた。今日、専門家個人の基礎訓練から継続学習へ続くプロセスは重く受け止められているけれど、組織が時間をかけて成長し成熟に向うことはさらに重要なことではないか(それがそれぞれの国の建築界を支えているのである)。そのように受け止めてきた経験は、設計事務所経営における素朴な確信につながったし、若い学生にもそのことを伝えることになった。

でも、社会はときにその素朴さを裏切るような局面に出会うことがある。辟易する場面で現実的な判断はしないわけではないが、素朴な確信はあえて動かさないことに決めている。真鍋教授も同じように捉えながら歩みを進めていったのではないか。

佐野吉彦

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