建築から学ぶこと

2019/06/05

No. 674

その建築は社会を豊かにした

これまでいろいろな建築賞の審査にあたる機会が与えられた。そのおかげで多くの優れた相手から話を聞き、魅力的な作品を訪ねることができたのは幸いである。審査員間で議論を交わすときにも多くの学びがあった。時にアイディアコンペ審査もあり、建築以外の分野を評価することもあったが、いかなる場合も、責任ある者は曇りのない眼と見識を備えるべしとの、社会の意思を背中に受けていた気がする。
もちろん審査期間中は対象にかかわる発言はできなかったので、あらためて振り返ってみたい(ちなみに審査員であることは公表されている)。4年度務めたBCS賞(日本建設業連合会)では、現地審査で建築主からの言葉を直接聞くことができる。2008年の<ROKIグローバル本社ビル>では、企業の積極的な姿勢が感じられたし、事実その後のプロジェクトでも設計者が果敢にチャレンジしていた。2016年の<流山市立おおたかの森小・中学校ほか>では、新しいまちでの発注者と設計者・施工者が一緒にプログラムを解くプロセスを理解した。一方で設計者の構想力の印象が強いのが2009年の<多摩美術大学図書館>や2017年の<静岡県草薙総合運動場体育館「このはなアリーナ」>である。見るにつけ聞くにつけ、設計者の判断は多種多様なものがある。
2年度務めた日本建築学会[業績部門]審査では、時間をかけた取り組みを追いかけることになった。2006年の<建築鉄骨の品質向上と信頼性確保に関する一連の業績>では、橋本篤秀さん(千葉工業大学教授、当時)のケレン味のない学究人生が印象に残る。2007年の<スケルトン定借の実践を通した建築計画と不動産制度の連携>や<ネパールにおける学校建設支援活動>では、状況に即してどう建築を計画するかの妙味を感じ取ったプロジェクトである。
その[業績部門]で今回、<サントリーホールの施設運営を通じた長年にわたる音楽文化への貢献>で共同受賞の運びとなった。最終的に音楽文化に貢献した、との評価は光栄である。何よりも建築は社会を支えるためにあるのだから。

佐野吉彦

2019年に日本建築学会賞(業績)を受賞した人たち(+関係者)

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