建築から学ぶこと

2022/09/28

No. 837

すでにできあがったもの、をどうするか

日本の戦後復興の過程で、居住単位にかかわるさまざまな探求があった。後押ししたのは1951年の公営住宅法の施行、54年に住宅金融公庫、55年に日本住宅公団の創設である。その流れの中で公団住宅・郊外団地が整い、そこで住戸の基本型が確立していった。プレファブ住宅による戸建住宅供給も活性化し、さらに日本が復興を果たしてからはマンション、コーポラティブ住宅などの類型が育ち、また住宅の高層化も進んだ。核家族の定着とともにあった高度成長は、しだいに家族のバリエーションが増え、住まい方に即した個性、家族の事情に合わせたプランが重視される時代となる。これからは、すでに進んでいる高齢社会への対応、育児における家族連携への転換などによって、住まいのかたちもよりよく変わってゆくだろう。
では、すでにできてしまった住宅はどうなるのか。ある時期の家族の目的にかなった住宅は、家族が巣立ち、変わってしまうと的確には対応しにくい。一方で、日本はまだまだ中古住宅市場が弱い。減築や増築、売買活性化によるマッチング、建材の再活用などはこれから深化させるべき社会的テーマであり、新たなビジネスのステージになるのではないか。
おそらくこれらは日本だけの課題ではない。20年ほど前に中国東北部の都市を何度か訪れたとき、そのたびに空港から中心市街地の間を高層マンションがどんどん増えていた姿を思い出す。ロシア風とも見えた低層住宅もあっという間に入れ替わるのだ。で、その先はどうなるのか。のちに東南アジアでも同じような状況を目にしたが、できあがってしまった高層住宅をめぐる未来は世界が共有する課題と感じる。
既存建築をめぐる問題は、新型コロナウイルス感染症流行をきっかけとして進んだ、オフィスのありようについても当てはまる。<すでにできてしまったもの>をどうするかは、は専門家が腕をふるうべき領域である。

佐野吉彦

活かされる住宅:横浜市イギリス館(1937)

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