建築から学ぶこと

2008/07/30

No. 142

サステナビリティのなかにあるもの

先日開催の洞爺湖サミットでは、会議そのものの報道だけでなく、「サステナビリティ」(持続可能性。この訳語の響きはとても硬い)をめぐるさまざまなメッセージがメディアに登場し、問題認識が広く共有された。意義深い節目である。さてここからは、国家としてのCO2削減数値目標を達成する、そのための技術やライフスタイル変革を推進する、といった「大きな視点」とともに、地域社会を自らの手で適切に編みなおしてゆくことがさらに重要となるだろう。リージョナル・サステナビリティという視点、つまりわが地域に住み続けるために、環境危機をどう克服するかという切り口である。地域をどう魅力的に保つかという、地域主体の思考を通して適切な解決を見出すこと。「大きな視点」から一度引き戻す、地道な取り組みが始まる。

好例として、日本建築学会賞(業績部門)を受賞した「求道会館求道学舎保存と再生事業」(東京・本郷)を挙げる。優れた建築に手を加えながら維持・継承するシステムを考案したもので、学寮はコーポラティブ住宅へとモデルチェンジされた。実は、多くの困難を乗り越えたこの事業の原動力は、まさしく建築が体現してきた「使命」であり、それを理解し支えた人々の存在にあった。建築がもともと持っていた求心力がプロジェクトを推進させたと言える。結果としてコミュニティや地域社会に対し、長期にわたる付加価値をもたらした点では、建築の保全が地域づくりにつながったケースと読むこともできる。

歴史の中で日本は合理的な構法を生み出し、それを用いて美しい建築や地域景観を維持してきた。頑丈さが第一ではない。リージョナル・サステナビリティの実現のためには一層多くの知恵と技術を組み合わせる必要があるが、その中枢には、受け継ぐべき「使命」が欠かせないように思われる。いろいろな姿をまとっている「使命」を発見することが今後の地域の鍵を握るだろう。

佐野吉彦

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