建築から学ぶこと

2006/10/18

No. 54

歴史のなかで起こっていること

教科書に書いてある歴史には、ときおり明らかな不連続面がある。たとえば明治維新は、長期安定していた幕府の武家政治が、対抗する武家勢力によって倒されたことに留まらず、武家そのものが消滅するところまでゆく。まさしく歴史が反転したのは事実としても、それは果たして歴史的な必然が動かしたものだったのか。「明治維新を考える」(三谷博・著)は弾みのある本だが、そのなかでこうしたできごとを生み出したメカニズムを解く試みがなされている。

幕末に登場したさまざまな思想や事件は、対立あるいは結合することで新しい展開が導かれている。同著が指摘しているのは、その変化の渦中にあって、人々が新しい秩序やルールを確立しようとしたことであった。言い換えれば、誰かが変化を起こすことで時代が変わるのではなく、変化を安定させようとする努力が時代を大きく変える。不連続面と感じられるのは、結果として全く新しい秩序がつくりだされているからである。順当でない選択肢に踏み込んだのだ。もし直前で潰えた穏当な選択肢—公武合体—を採用していたら、日本の近代はこのときは不連続にはならず、またその後の経過を大きく異なったものにしたにちがいない。

企業の歴史においても、大型の受注や環境変化を機に飛躍が起こることがある。こちらも同じように、急な変動を受けとめる新しい秩序を構築した結果によるものだ。建築家にとっても、ひとつの特別な仕事の受託が自らの設計プロセスの変更をもたらすことがある。そうした新秩序は歓迎すべきことであり、かたくなに方法論を変えないことは逆に魅力ある仕事の受託チャンスを失う可能性がある。

そうは言うものの、その時点では面倒な仕事を必死にこなす以上のことは考えていないかもしれない。ただ、適切な選択を迫られる。つまりは、過去の歴史で起こったできごとのひとつひとつは、現代のわれわれの泥臭いしぐさとほぼ同じなのではないだろうか。

佐野吉彦

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