2007/11/07
No. 106
中島信也CM展が、銀座の2つの会場で開催された。それぞれ「中島信也と29人のアートディレクター」・「絵コンテ原画展」という副題が付けられている。CMディレクターである中島氏の誠実かつ精緻な仕事ぶりが伝わってくる展覧会だ。中島さんはその場の固さを和らげる気遣いにおいて図抜けたものがあると聞くが、私が会場を訪ねた日、彼は自らの本を買ってくれた人に小まめにサインしていた。時々相手の似顔絵を描きながら。実にホスピタリティにあふれた人だ。
CMディレクターという仕事は、広告主から信託されて有能なクリエイターを束ねて広告制作をおこなう役割である。この展覧会はその実際を上手に見せてくれる。一方の会場では、いろいろな広告のなかでクリエイターとの理念共有がどうおこなわれたかが示され、もう一方の会場の壁に掲げられるのは、CM制作過程での議論や検討を集約した「絵コンテという設計図」だ。コンテの精妙さと明瞭な意図伝達の工夫は感動的だが、それは俳優やカメラマンなどの共同者、もちろん商品への敬意を感じる筆致でもある。目配りと、表現力。なるほど、伊右衛門はあくまですがすがしく、そこでの女優・宮沢りえは美しく、いとおしく描かれている。
この展示は「あのCMの絵コンテ」という本に収められており、ここであらためて内容を味わうことができる。ページをめくってゆくと、広告とは瞬時の切れ味だけでなく、広告主の継続的な商品戦略のなかに位置することが理解できる。CMディレクターは広告に名前が出るわけではないが、広告主と常に鮮度のある・敬意のある関係で結ばれることで、お互いにとって有益な間柄となる。本の中で中島さんは、この本で広告主であるSi社とSu社についてページを割き、変わらず強い憧れを抱きつづけていることをさらりと表明している。これはなかなか見事。経験を通して身についた運動神経と言えよう。