建築から学ぶこと

2016/03/30

No. 517

異なる文化を橋渡す人たち

スペイン生まれのアーティスト、アントニ・ムンタダス(1942‐)による「ASIAN PROTOCOLS」がアーツ千代田3331で開催中である(4/17まで)。文化の裂け目に起こる真実に着目してきたムンタダスは、今回は時間をかけて日中韓3カ国の間にある裂け目とつなぎ目を切り出してみせている。それぞれの文化にあるPROTOCOL(手続き)とは、共通であったり、固有のものであったり、入れ子状に影響を与えあったり。そのダイナミズムを、言語、教科書、ユニバーサルな都市風景、国境を越えて入れ子状に移植された「**街」のような光景といったさまざまな事象から切り込んでいる。そこに交易と政治が大きくかかわっているのだ。結論は明示されないが、ここから先に何を掘り下げてゆくかは観衆に委ねられている。

この展覧会はソウルで2014年に開催され、来年以降に北京でも開催される予定とのことである。 それぞれなりの反応を引き出すことは狙いでもあるが、相互のあいだに横たわる見えない壁をていねいに取り除こうとしているようでもある。それにしてもきれいな空間設営だ。こういう微妙になりがちなテーマを解き明かすには、静謐なデザインを伴うクオリティは必要不可欠なのである。

異なるコンテクストが交わるところに冷静な知的成果を生みだしてゆくという目標設定+認識はすばらしい。事実、戦前の沖縄に生まれた英文学者・米須興文さん(1931-2015)が達成したもの、大船渡にあってケセン語訳聖書を刊行するなどの医師・山浦玄嗣さん(1940‐)らの取り組みにあるように、彼らはコンテクストの狭間を知と知をつなぐことで丁寧に埋めようとしたかがわかる。それらは彼らが動き出すことによってこそつながった成果である。決して声高な政治的言語では達成できなかったものといってよい。

佐野吉彦

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