建築から学ぶこと

2021/07/14

No. 778

水害から将来を見通すこと

この時期には毎年違った形で豪雨災害が起こりやすい。2018年の西日本豪雨をはじめとする、河川の急な増水・決壊による被害が近年相次ぐなかで、先般の熱海での土石流は衝撃的だった。2014年に広島の住宅地を襲った土砂災害を想起させるものである。広島の災害以降、<線状降水帯>という用語が広く使われるようになっていたが、熱海の災害の要因は同じような集中・継続した雨量でもあり、この地特有の地質でもあり、さらに山の頂部の盛土崩落とも言われる。結果として逢初川という短い流れを擁する谷あいに構えた住宅が縦列的に壊滅した。

ここではその責任を問う話はやめておくが、一般論として、ひとつの川筋に潜むリスクというものは、どこまで住民に共有されたものになっているだろうか。たとえば、阪神間(兵庫県)では東西に延びる六甲山系に発する複数の河川が、1938年の阪神大水害をはじめとする水害に直接的被害をもたらし、1995年の阪神大震災では水系の性状によって被害が異なった。そういう経過もあって、この地は縦方向の水系への関心がある。水系は大きなリスクを宿すが、じつは日常的には防火帯でもあり景観要素であることが常時の関心を呼ぶことにつながっている。ほかに話を拡げてみれば、国際河川・ドナウ川の航路の安全や環境保全などは、国際対立を乗り越える理解と様々な協約に支えられることで、川が経由する10か国の生活や経済に好ましい影響をもたらしている。

熱海の行政や住民の意識が薄いわけではなかっただろうが、今後もこの地を居住コミュニティとして維持しようとするならば、水系で起こる工事の適切な監視や、水系の保全と活用といったテーマをより掘り下げてゆくべきなのであろう。災害は不幸ではあっても、将来へ向けての始まりであってほしい。

佐野吉彦

いつもは穏やかな伊豆の山と海

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