建築から学ぶこと

2013/02/20

No. 363

そこに培われた/培われる基盤 (下)

神奈川県立近代美術館(鎌倉館)に出かけた。美しい幾何学のなかに、快い光と空気が漂う、坂倉準三による1951年設計の名品である。久しぶりに対峙してみると傷みも目につくけれども、良好な状態で存続することを心から願う。ここで開催されていたのは「実験工房」展で、1950年代の時代の魂を宿した美術や音楽の精鋭の軌跡を楽しむことができる。それはこの美術館建築に宿るものと同じ精神。これらに学ぶべきなのは、その時代と社会の質量を正確に感じ取りながらの創造的姿勢であろうか。永く記憶すべきエポックである。

同じ日、エサ・ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団の公演を聴きに出かけた(2月9日、横浜・みなとみらいホール)。サロネン自身の作曲によるバイオリン協奏曲が含まれる公演に先立ち、サロネンと西村朗という2人の作曲家のトークがあった。ほぼ同い年(つまり私と同年齢)の2人とも、まず戦後の現代音楽が教条的に捉えられてきたことに異議を表明する。サロネンはその時代の課題や特性を感じて表現して未来を見据えようとする一方、西村は人がたどった歴史を深掘りしようとしていた。議論の対立はないが、作曲家あるいはすべての表現者が有する両面のアプローチをうまく切り出していた。

1945年は建築以上に現代の作曲にとっては変曲点であったようだが、どちらの分野も同じように普遍的な視点を追求したあと、次第にローカルな要素を再発見しに戻ってきた。それらは「良いデザイン」というテーマを探りあてる歳月であったと言えるだろう。おそらくここから先は新しいかたちでのローカリズムの追求となる。音楽においては、現代の聴衆や社会との関係をきちんと捉えなおすことになるし、建築においても、前回・第362回で述べたように、その場所にある社会テーマと積極的に交わることが答となる。そう横浜で思いをめぐらした日の60年前、鎌倉で見た建築と芸術はそのことの模索を始めていたのだろう。

佐野吉彦

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