建築から学ぶこと

2019/02/06

No. 658

ステンドグラス文化、その奥行きを探る

そこでステンドグラスにある奥行きが明らかになる。京都工芸繊維大学美術工芸資料館で開催中の「近代日本のステンドグラス」展はなかなか興味深い(2/23まで)。展示物の多くは金田美世さん(ステンドグラス作家)が丹念に解明した木内真太郎資料に基づく。それらは、宇野澤辰雄(1867-1911)から木内真太郎(1880-1968)へと受け継がれる日本近代のこの工芸の歩みを網羅するものである。彼らと彼らの工房は、自らの技量を磨き続けただけでなく、鈴木禎次や松室重光、安井武雄や石本喜久治といった建築家との協働によって華やかな成果を生み出した。縁と信頼関係の広がりは目覚ましい。あらためて、ステンドグラスが近代建築を構成する不可欠な要素技術であったことに気づかせられる。
今回の展示では、デザイン原案、制作プロセス、最終到達点のさまざまな段階を知ることができるよう工夫されている(カトリック夙川教会聖堂のデザイン画は、当地で現存する作品と見比べると良いだろう)。構成は石田潤一郎さんと三宅拓也さんの両学究の尽力に依っているが、あわせてこの大学の前身・京都高等工芸学校がステンドグラス制作の指導に熱意を持っていたことが紹介される。そこには武田五一のリーダーシップがあったというが、そのカリキュラムから宇野澤の流れに加わる人材が育った。この学校が<ステンドグラス文化>興隆に果たした役割は大きかったのだ。おそらく、どの文化技芸も、教育を含めた重層的な構造によって支えられているだろう。その事実は示唆に富んでいる。
余滴ながら、同じ資料館では「南方熊楠―人、情報、自然―」が同時開催中である。白眉は、重層的な情報から明瞭な体系を紡ぎ出す、南方熊楠(1867-1941)の手順を分析してみせる展示。両展覧会を重ねあわせてみるのも面白い。それらは同時代に起こった営為なのである。

佐野吉彦

京都工芸繊維大学美術工芸資料館にようこそ

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