建築から学ぶこと

2013/08/28

No. 389

その土地の水と土をくぐりぬけて

人間にはつらくても、ブドウの生育には暑い夏は悪くない。たっぷりと夏の日差しを浴び、一日の温度差を感じていいブドウが育ち、いいワインができあがる。甲州や信州などの、各地のブドウ畠とワイナリーのある風景から、ここ数年飲みごたえのある「日本ワイン」が生まれ、市場の評価を勝ちえてきた。今のところは、国産ワインと呼ばれる分類のなかには、原酒を輸入して国内瓶詰する製品が大きな割合を占めているが、これからは真に地域に根付いた地酒である「日本ワイン」が大いにシェアを獲得してゆくと思われる。

重要なことは味が国際的レベルで競争力を得ることであり、同時に産地の持つ付加価値も同時に高まることである。ワイン産地のひとつ、長野県塩尻はブドウ栽培が始まってから120年ほど。ここでの取り組みはその両方の視点から進められている。たとえば、10月には「塩尻ワイナリーフェスタ」と名づけた、この地の8軒のワイナリーを訪ねまわるイヴェントがあり、地域に共通したイメージを育む試みがある。さらに塩尻志学館高校にはブドウの収穫・醸造・瓶詰を学ぶプログラムがあり、地域における専門家育成の機会が用意されているという。評価の高いブランドが地域経済を動かしながら、次世代につなぐというアクションには、前向きな地産地消の精神が宿っている。

一方で「ブドウ畠とワイナリーのある風景のイメージ」を盤石なものにするには、建築に関わるビジュアルな特徴づくりももっと探求されるべきである。塩尻市は奈良井宿等の良好な歴史的街並みが残るところで、風土に馴染んだ材料・や工法がうまく統合した例がいくつも見られる。この伝統を引き継ぎつつ、では、現代の経済や流通に対応した景観はぜひほしいところ。この地の知恵をうまく引き継いでじっくり「形」を育てたいものだ。ワインも建築も、手間と時間をかけて熟成すれば旨くなるではないか。

 

関連記事:“「国産ワイン」と「日本ワイン」は何が違う?”(日経トレンディNET)

佐野吉彦

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