建築から学ぶこと

2015/12/09

No. 502

アメリカの食と文化について考える

<アメリカは食べる。―アメリカ食文化の謎をめぐる旅>(東理夫著、作品社2015)は、アメリカにある多様なスタイルの料理を丹念に掘り下げながら、それとともにある文化、それを携えてきた人々について考察する。ある者は希望に満ち、ある者は哀しみとともにこの国にたどりつき、アメリカにおいての「食」をスタートさせた。そこにドイツ起源、イタリア由来などをたどることは可能だが、結果的には、ハイブリッドな料理が、ハイブリッドな文化がそこに生まれた。<誰もが少しずつ妥協することによって世界のどこにもない「アメリカの食」と「アメリカ人」という新しい文化と民族が創られていった>」は著者が記しているように。

アメリカという土地は、プレーリースタイルからスカイスクレーパーへと発展する独自の建築史、大陸横断鉄道から乗用車、飛行機から宇宙船へとつながる乗物の歴史に見る通り、前進するエネルギーに満ちている。著者の「この国には多くの国の人びとが集まり、一つの壮大な事業・一国の独立という大きな事業を成し遂げようとしたことがわかる。この国は、もともとそういう宿命にあった」という指摘は、もちろん「食」においても同じであったというわけである。アメリカの本質を切り出すことに、この本は成功していると言えるだろう。

興味深いのは、食を支える商業に関する考察である。20世紀初め頃、ゼネラルストアの役割はスーパーマーケットへと替わってゆくのだが、「その頃からアメリカの人びとは孤独になり、その寂しさを埋めるように、失われたコミュニティの絆を求めてボランティア活動や教会での行事、近隣との付き合いランチパーティーやティーパーティーを頻繁に催して忙しがるようになったのではないか」と記している。ここには特に皮肉な眼差しはないが、アメリカ文化が伝播した国には、同様の傾向までもがパッケージされているかもしれない。その意味ではアメリカ文化を深掘りする意義はありそうだ。

佐野吉彦

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