2023/03/15
No. 860
このところ、分野横断的な学びに注目が集まっており、その具体化のキーワードがSTEAM教育ということになる。2000年代から始まった、科学・技術・工学・数学を表すSTEMに、現在はアートのAが加わって、探究と創造を一連のものとした育成イメージが出来上がっている。こうした動きと連動して教育施設の変化も加速してきた。普通教室と共用ゾーン、特別教室らに連続感が生まれている。ここでもAによるスパイス的役割は大きいと感じる。
実は、Aはリベラルアーツと一緒にまとめられている。アートと人文的教養はできれば切り分けて双方大事にしてほしいと感じる。それぞれの思考が、要領の良いサイエンス人材を育てる道具と見られては困る。たとえばアートは既存の概念を反転させるアクションであり、AはSTEMの存立を問い直す力を持っている。中国出身のアーティスト・艾未未(アイ・ウェイウェイ)が「アートは心の奥底にある真実を明かすものだから、重大なメッセージを開く力がある」(*)と述べているように、アートの切りこみ方についてこそ学ぶべきだろう。彼の生き方には、アーティストであり続けることへの覚悟が感じられる。ちなみに、これからの社会に向けては、すぐれたサイエンス人材の育成が必要であるが、実はアート人材の充実も世界には重要なのである。
もうひとつ思うのは、STEAM教育では倫理にかかわる視点が不可欠という点である。人に潜む可能性の掘り起しはSTEAM教育が強調するところだが、傲慢さを抑えて能力を使うべき点、共同体への畏敬の念は教えられているだろうか。もし人文的教養の重要性を含めるのなら、サイエンスを倫理や哲学、宗教といった領域からものを考える修練は大切なところだろう。
*「千年の歓喜と悲哀―アイ・ウェイウェイ自伝」より(KADOKAWA,2022)