建築から学ぶこと

2018/08/08

No. 634

実験的精神を受け継ぐ – ドビュッシーとモネからの100年

ある時代にいろいろなジャンルで学術技芸が一斉開花するときがある。享保の改革で位置づけられる時代には、蘭学の杉田玄白(1733-1817)や蘭画の小田野直武(1750-80)、そして多分野で才を示した平賀源内(1728-80)がいた。彼らは先行する時代の成果を受け継ぎつつ、新しい情報によって江戸期に化学変化を起こした。そこには流動性があり、実験的気風があった。
ドビュッシー(1862-1918)やモネ(1840-1926)がいた19世紀から20世紀の変わり目のパリもそのような時代と言えるだろうか。彼らの晩年に起こるロシア革命(1917)や第一次世界大戦(1914-18)を重ねてみると、ここにも流動的な空気がある。建築ではウィーンにいたオットー・ワーグナー(1841-1918)を重ねてみたい。この場面に登場した逸材は、過去から未来を両眼でにらみながら、それぞれの分野に方法論の転換を起こしてゆく。
ドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」(1902)は、先行するワーグナーのオペラの存在を意識しながら、音楽と言語と舞台装置の融合を促している。最近のミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢による公演は、この作品にある実験的精神を受け継ごうとするものだった。そこには決して、古くて懐かしいドビュッシーはいない。
同様に、横浜美術館で開催の「モネ それからの100年」展では、モネ自身の名作はさることながら、それに添わせるように配された、現在の作家による対象追究が興味深い。かれら(リヒター、スティーグリッツ、鈴木理策、児玉靖枝など)にある、アプローチは異なるけれど、芯のある静かな志は、モネが抱いた魂に学んでいるように見える。重要なことは、放っておくと見逃しかねない瞬間や、その変化の兆しを、強い意思でつかまえることなのであろう。

佐野吉彦

ペレアスとメリザンド公演でのさまざまな試み

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