建築から学ぶこと

2021/12/22

No. 800

「建築から学ぶこと」が目指すところ

本年の「建築から学ぶこと」の最終配信がちょうど800回の節目となった。20059月に連載を開始したので、概ね16年かかった計算になる。ずっと建築設計に軸足を置き続けている私が、その時期ならではの題材に事欠かなかったのは、設計という仕事が常に社会の変化と隣り合わせにある証拠でもある。ひとつ振りかえれば、16年前にはSDGsという言葉は世に定着していなかった。それが、先日高校で「出前授業」で環境をめぐる話をしたときには、一から定義しなくても生徒の頭に入っているくらい進んできた。むしろ若い世代の方が環境危機を切実に感じているようで、理解の裾野が確実に広がっている。環境建築の取り組みも深まった部分もあり、もはやSDGsは日常的に語りあえる言葉である。とは言え、そこで扱っている社会課題の解決は先が長い。この連載でも引き続いて社会の変化と遅滞に注意を払おうと考えている。

建築のつくりかたについては、官と民の間の線引きで新機軸が次々と登場した16年間あった。民間活力のさまざまな導入が進み、政策への市民参画にも空気になじみができてきた。NPOが社会の基盤として機能しているほか、近年ではクラウドファウンディングや企業版ふるさと納税といった資金調達が、孤立していたプロジェクトを前に進める力となっている。もっとも、経済合理性だけですべてがバラ色の結果を導けるわけではないので、本当に適切な線引き・官民連携が運用されているのかは着目したい。

強調しておきたいのは、人やまちの元気を支える建築は、自発性のあるソーシャルキャピタル(人間関係資本)から生まれているところである。それは建築をつくる段階にも、供用する段階の両方において重要な役割を果たす。地域に根差したありかたも距離を越える連帯もあるだろうが、その動きもこの連載を通じて紹介してゆきたい。

佐野吉彦

様々な文化から由来する聖像:多文化共生がコミュニティを活気づけている。@ カトリック尼崎教会

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